黒髪
近松秋江

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)訊《たず》ねられても

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)一層|懊悩《おうのう》せしめた。

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「※」は「言+虚」、第4水準2−88−74、409−下−4]
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     一

 ……その女は、私の、これまでに数知れぬほど見た女の中で一番気に入った女であった。どういうところが、そんなら、気に入ったかと訊《たず》ねられても一々口に出して説明することは、むずかしい。が、何よりも私の気に入ったのは、口のききよう、起居振舞《たちいふるま》いなどの、わざとらしくなく物静かなことであった。そして、生まれながら、どこから見ても京の女であった。もっとも京の女と言えば、どこか顔に締りのない感じのするのが多いものだが、その女は眉目《びもく》の辺が引き締っていて、口元などもしばしば彼地《あちら》の女にあるように弛《ゆる》んだ形をしておらず、色の白い、夏になると、それ
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