が一層白くなって、じっとり汗ばんだ皮膚の色が、ひとりでに淡紅色を呈して、いやに厚化粧を売り物にしているあちらの女に似ず、常に白粉《おしろい》などを用いぬのが自慢というほどでもなかったけれど……彼女は、そんな気どりなどは少しもなかったから……多くの女のする、手に暇さえあれば懐中から鏡を出して覗《のぞ》いたり、鬢《びん》をなおしたり、または紙白粉で顔を拭《ふ》くとかいったようなことは、ついぞなく、気持ちのさっぱりとした、何事にでも内輪な、どちらかというと色気の乏しいと言ってもいいくらいの女であった。
 そして、何よりもその女の優《すぐ》れたところは、姿の好いことであった。本当の背はそう高くないのに、ちょっと見て高く思われるのは身体《からだ》の形がいかにもすらりとして意気に出来ているからであった。手足の指の形まで、すんなりと伸びて、白いところにうす蒼《あお》い静脈の浮いているのまで、ひとしお女を優しいものにしてみせた。冬など蒼白いほど白い顔の色が一層さびしく沈んで、いつも銀杏《いちょう》がえしに結った房々とした鬢の毛が細おもての両頬《りょうほお》をおおうて、長く取った髱《たぼ》が鶴《つる》の
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