荒い白い立縞《たてじま》のお召の袷衣《あわせ》を好んで着ていたが、それが一層女のすらりとした姿を引き立たせてみせた。でもそのころは今から見ると女の二十という年からあまり遠ざかっていない若さがあった。私自身にとっても、この女のために……まさしくこの女のためのみに齷齪《あくせく》思っている間に、五年という歳月は昨日今日《きのうきょう》と流れるごとく過ぎてしまって、彼女は今年もう二十七になるのである。そう思ってまたじっとその顔を見ていると、水浅黄《みずあさぎ》の襦袢の衿の色からどことなく年増《としま》らしい、しっかりしたところも見える。
 女は、女中が先ほど持ってきた白い西洋皿に盛った真紅な苺の実を銀の匙《さじ》でつつきながら、おとなしく口に持っていっている。
「今夜ぜひ逢《あ》う約束でもしている人があるのか?」私はそういって訊ねた。
「ちがいます」
「逢う約束の人がなければ、ここにいたっていいのじゃないか。手紙でこそ月に幾度となく話はしていたけれども二年近くも逢わなかったのだから私にいろんな話したいことがあるのはあんたもようわかっているはずだ」
「そやから帰ってから、後でいいます」
「あん
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