た。發着の時間がよく分つてゐなかつたので、比叡の辻の太湖汽船の乘降場までゆくと、八時半にそこに寄航する東※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りの船が二十分ばかり前に出たあとで、その船は煙を吐きながら堅田の沖を今滑つてゆくのが見える。私はぐるりと湖水を一とめぐりするつもりである。殊に東岸には奧の島があつて、そこには古い長命寺の寺があるので、かねてよりその寺に行つてみたいと思つてゐたから、どちらを先きにしてもよかつたのだ。私は折角二十五町、坂本の濱までは三十五六町の道を喘いで降りて來たのに、そんなわけで、殘念さうに遠くの水の上をゆく船の影を追うて眺めたが仕方がない。そこで通ひ船の船頭の教へるまゝに、その次に西※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りをゆく船は急行で、坂本港へは寄航しないので、堅田まで俥でいつて、其處から乘ることにした。なるべくならば少しの行程も水路をゆきたいのであるが、先頃來、山の上から眺めてゐる堅田の町に入つてみるのも旅の一興であると早速心を取り直して俥のある處までまた七八町の道を無駄足して下坂本の濱から俥に乘つた。比叡の峰つゞきの裾山が比良岳の方に向つて走つて
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