れでそこにゐた所化に事由を話し、別棟の寢處に移つてその晩は夕飯も食はず風呂にも入らず、呻吟しながら寢てゐた。それでも一と寢入りして九時頃に眼を覺ますと、頭もやゝ輕く、氣分も大分快くなつてゐた。それで安心して此度寢なほすと、翌朝まで一と寢りに熟睡することが出來た。
湖の西岸は汽船の往復も一日に數囘あるが、湖東の方はずつと汽車が通じてゐるので、從つて船の便は少く、大津と竹生島との間は東※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りは一日の往復一※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]づゝしかない。琵琶湖の一番奧になつてゐる、もう餘呉《よご》の湖《うみ》に近い鹽津をまだ闇いうちに出帆した船が竹生島に朝の五時三十分に寄航するのである。歸航はぜひとも湖東を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つて來ようと志してゐたので五時半の船に乘り遲れたら、また一日竹生島に逗留しなければならぬ。寺男は氣を利かして寢室を覗いて、どうするかと注意してくれたが、強ひて起きられさうだつたけれど、折角まだ二三時間は眠れさうなので、此の快よい睡眠は何物にも代へがたく、私は蒲團の中から聲を出してもう一日延ばすことに
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