くない。そう思って根よく待っていると、お宮は笑顔を作りつつ降りて来た。
「じゃ手紙をお返ししますから私の家に来て下さいって。自家の主婦さんが」
「自家の主婦さんて、お前んとこの主婦さんに何も用はない」
そういいつつ私は一軒置いた先のお宮の家に入って行った。
長火鉢の向うに坐っていた主婦はものものしい顔にわざとらしい微笑《えみ》を浮べて、
「一体どうしたんです?」と呆《あき》れた風の顔をして私の顔を見上げた。
座には主婦のほかに女中のお清、お宮と同じ仲間のお菊、お芳、おしげなどが方々に坐っていて、入っていった私の顔をじろじろと黙って見守っている。
「なに、どうもしやあしないさ。私もうお宮さんのところに来ないから、私からよこしている手紙をもらって行こうと思って」
「つまらない。どうしてそんなことをするんです?……若い人たちのすることは私にはわからない」
「そんなことはどうでもいいんだ。私もこのとおり今まで貰《もら》っていた手紙を持って来た。これを戻すんです」
そこへお宮は二階から金唐紙《きんからかみ》の小さい函《はこ》を持って降りて来た。その中には手紙が一ぱい入っている。
そして
前へ
次へ
全100ページ中97ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
近松 秋江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング