茶の間の真中にこちらに尻を向けて坐りながら、
「さあ、こんなものがそんなに欲しけりゃあいくらでも返してやる」と、山のような手紙の中から私の手紙を選《え》り分けて後向きに叩《たた》きつけた。
「さあ、これもそうだ! ありったけ返してやるから持って行け」
 私は長火鉢の前に坐って、それを横眼に見ながら笑っていた。
 お宮は七、八本の手紙をそこに投げ出しておいて、
「あんまり人に惚《ほ》れ過ぎるからそんな態《ざま》を見るんだ」といいつつ二階に駆け上って、函を置いて降りて来ると、
「こんなところに用はない。柳沢さんのところに早くゆこう」と、棄《す》て科《ぜりふ》をいって裏口から出ていった。
 私は、黙って笑っていた。
「一体どうしたんです?」主婦は笑いながらまた同じことをいった。
 私は腹の中でこの畜生め、何もかも知っていやあがるくせに白ばくれていやあがる。と思いながら、
「いや何でもない。この手紙さえ戻してもらえば私には何にも文句はないんです」わざと静かにいって、お宮の投げ出して行った手紙を取り上げて懐中《ふところ》に収めた。
 そこへお宮はまた戻って来て、座敷に突っ立ちながら、
「柳沢さん
前へ 次へ
全100ページ中98ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
近松 秋江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング