二つ三つというところまでおりて土間に私が突っ立っているのをちらりと見てとるとお宮は、
「あらッ!![#「!!」は第3水準1−8−75、373−上−7]」と、いったままちょっと段階《だんばしご》の途中に佇立《たちどま》った。そしてまた降りて来た。
 その様子を見るとまた身体《からだ》でも良くないと思われて、真白い顔が少し面窶《おもやつ》れがして、櫛巻《くしま》きに結《い》った頭髪《あたま》がほっそりとして見える。
 階段《はしごだん》を降りてしまうと、脱いでいた下駄を突っかけていきなり私の傍《そば》に来て寄り添うようにしながら、
「わたし病気よ」と、猫《ねこ》のようにやさしい声を出して、そうっと萎《しお》れかけて見せた。私は、
「この畜生が!」と思いながらも、自分も優しい声をつくって、
「ふむ、そうか。それはいけないねえ」と、いいつつまたお宮の頭髪から足袋《たび》のさきまでじろじろ見まわした。
 春着にこしらえたという紫紺色の縮緬《ちりめん》の羽織にお召の二枚重ねをぞろりと着ている。
「こんな着物が着たさに淫売《じごく》をしているのだなあ」と思うと唾《つばき》を吐きかけてやりたい気になり
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