くび》が坊主襟じゃないか」と、柳沢は口の先でちょいとくさすようにいう。
「うむ。それからあの耳が削いだような貧相な厭な耳だ」私も柳沢に和してお宮を貶《けな》した。
「とにかくよく顔の変る女だ」
「うむ、そうだ。君もよく気のつく人間だなあ。実によく顔の変る女だ」
まったくお宮は恐ろしくよく顔の変る女だった。
ややしばらくそんな話しをしていた。
「もう出かけるのか」
「うむ、もう出る」
それで私は柳沢の家を出て戻った。
その翌日《あくるひ》であった、この間お宮に会って話しておいたことをどう考えているか、もう一度よく訊いて見るつもりで、こんどは本当にお宮の手紙を懐中《ふところ》にして蠣殻町に出かけていった。
先だって中からよくお宮の家から一軒おいた隣家《となり》の洋食屋の二階に上ってお客を呼んでいたので、今日もそこにいってよくお宮の思案を訊こうと思って何の気もなく入口のカーテンを頭で分けながら入っていった。
「いらっしゃい!」と、いう声をききながら、土間からすぐ二階にかけた階段《はしごだん》を上ろうとして、ふと上り口に脱ぎすてた男女の下駄《げた》に気がつくと、幅の広い、よく柾《ま
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