に来てくれるのが厭《いや》ならば、その手紙は私の方に返して欲《ほ》しいというんだ。君は柳沢さんの方にゆくんだろう」
「そりゃ考えて見るけれど、私、柳沢さんなんか、あなたの友達に身を任すなんてそんなことをする気遣《きづか》いはない」
私は何を言うかと思いながら、
「それならそれでいいから、私また一週間ばかりして来るから、その時分までよく考えておいてくれたまえ」そういってそこの待合を出た。
柳沢は行ってはいなかった。
じゃ、いろいろ思いまわしたのが自分の邪推であったろうか、邪推としたら自分は厭な性質をもっている。私自身|他人《ひと》から邪推せられた時ほど厭な心持ちのすることはない。自分はそんな邪推をするような人間を何よりも好かぬ。そんなことを考え考えその晩は加藤の二階に戻って来た。
それから二、三日たって、それでもまだやっぱり柳沢とお宮との間が気になるので柳沢の家にいって見た。
すると柳沢は階下《した》の茶の間で老婢《ばあさん》に給侍《きゅうじ》をさせながら御飯を食べていたが、
「この間うち家にいなかったな」と、いいながら私は火鉢《ひばち》の横に坐った。
「うむ」と、いいながら柳
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