うですなあ。もう一昨日《おととい》、その前の日あたりからでしょう」
「一人のお客のところへそんなにいっているの?」
「ええ、そうでしょう。私よく知らないんですよ。……あなた大変気にしているのねえ」
「気にしているというわけもないが、……どこの待合?」
「……さあどこか、私知らないのよ」
「お清さん君知らないことはないだろう。教えてくれないか」
「そりゃ言えないの」
「いえないのは知っているが、教えてくれたまえ」
そんなことを戯談《じょうだん》半分にいいながら、お清がお勝手口の方へちょっと出ていった間にふっと火鉢の上の柱に懸かっている入花帳《ぎょくちょう》が眼に着いたので、そっと取りはずして手早く繰って見ると、お宮が一昨日からずっと行っている待合が分った。
その待合は、いつか清月も柳沢に知れているから他にどこか好いところはないだろうかとお宮に相談したら、じゃ有馬学校の裏にこういう待合があるからといって教えてくれたその待合である。
「ははあ、じゃあすこに行っているな。すると柳沢と違うかな。それとも柳沢もそこへ連れ込んでいるのだろうか」
そんなことを考えながら、お宮のいっている先がそう
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