うお宮の私と柳沢とに対する本心がわかったから、私は怨恨《うらみ》と失望とに胸を閉されつつ、どうかして私からお宮にやっている手紙を取り返すことに苦心した。
二、三日立ってからであった。私にはふとしたことから柳沢とお宮とがどこかで逢っているような気がしてたまらない。それで柳沢の家を覗いて見ると老婢《ばあさん》が一人留守をしていて柳沢はいない。いよいよお宮のところにいっているに違いないと思うと、ますます手紙のことが気になりだした。で、すぐその足でお宮を置いている家までやって行った。
八時ごろだったから売女《おんな》は大方出ていって家内《うち》は女中のお清が独り留守をしていた。
「お主婦《かみ》さんはどうしたの」といいながら私は例《いつも》の通り長火鉢の向うに坐った。
「おかみさんも今ちょっと出ていませんよ」
「宮ちゃんは今日どこ?」
「ちょっとそこまで行っています」
「今晩は帰らないだろう」
「ええ、帰りませんでしょうなあ」
私は、もうどうしても柳沢と逢っているに違いないような気がして来た。
「いつから行っているの?」
「もう大分前からですよ」
「大分前からって、いつごろから?」
「そ
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