「俺は、そんなにしてまで君の気嫌を取らなくってもいいのだ。ははは」
そういって、私はわざと声高に笑った。
お宮は不貞た面をふくらして黙りこんでいたが、しばらくして私の顔をジロジロと汚《きたな》そうに瞻りながら、
「あなたその顔はどうしたの?」
柳沢もそれにつれて私の顔を汚そうに見てにやりにやり笑っていた。
私の顔はその時分口にするさえ浅ましい顔をしていた。まだ去年の秋お宮のところへ二度めか三度めにいった時|翌朝《あくるあさ》帰って気がつくと飛んだことになっていた。医師に見てもらうとその病気《やまい》だといって手当てをしてくれたけれど、別に痛くも何ともなかったから、そのままうっちゃっておいた。それが一月の末時分から口や鼻のまわりから頭髪《あたま》に小《ち》さい腫物《ふきでもの》のようなものが出来て来たからまた医者に行って見てもらうと医者は、顔を渋《しか》めて、
「ああ、来た……。ちょうどあれがこうなって来る時分だ」といって、いろいろ手当てをしてくれて「ひとしきり頭髪《かみ》が脱《ぬ》けてしまうよ……ナニまたじき生《は》えるのは生えるけれど」そういった。
はたして医者のいったと
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