おりに顔の吹出物はだんだん劇《はげ》しくなって人前に出されない顔になった。そうなると私は故郷《くに》に年を取っている一人の母親のことを思った。
親が満足に産みつけてくれた身体《からだ》にもし生涯《しょうがい》人前に出ることの出来ないような不具な顔にでもなったら、どうしよう。そのことを考えるとまた夜の眼も眠られないことがあった。お前のことといい、たとい高等地獄とはいいながらお宮の義理人情に叛《そむ》いた仕方といい、その上にお宮から感染した忌わしい病のために一生不具の身となるようなことがあっては年を取った一人の親に対して申しわけがない。
お宮が私に叛いて柳沢に心を寄せて行っても、私はその浅ましい汚らわしい顔を恥じてじっと陰忍していた。皆を殺して自殺をしようかと思った。
「どうしたって、これはお前からもらった病気だ」
「ふむ?……」お宮はそういったきりしばらく黙っていたが、
「何んだ! あんまり道楽をするからそんなことになるんだ。……おかみさんにも道楽をするから棄《す》てられたんだろう。……おかみさんどっかで妾をしているというじゃないか」
そういってお宮は荒い口も利かぬように堪《こら》
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