二人で柳沢さんのところにいって見ようか」と思い立ったようにいった。
 私は、また柳沢とお宮と並べておいて二人がどうするか見たいと思ったから、
「ああ行って見よう」といって、それから二人で柳沢の家に行った。
 柳沢は例《いつも》のとおり二階の机の前に趺座《あぐら》をかいていたが私たちが上っていったのを見て、笑うのは厭だというような顔をして黙り込んでまじまじ他《ひと》の顔を瞻《みまも》っていた。
「書生の家だから、何にもないだろう」
 お宮がそこらを見廻しているのを見て、柳沢はそういった。
「好い家ねえ。こんなところにいたらさぞ勉強出来ていいでしょう」お宮は腹からいうようにいった。
 私は畳が冷たかったから、自身で床の間に積んであった座蒲団を取って来て敷いた。
 するとお宮はそれを見て、
「あなた自分のだけ取って来て私のは取って来てくれないの」ぷりぷりしていった。
 私は聞いて呆れながら、お宮は、私がそんなにして女の気嫌《きげん》を取るほど惚れていると自惚《うぬぼ》れているのだろうかと思って柳沢の顔を見た。柳沢もお宮のいうことがあまりに妙なことをいうとでも思ったか私と顔を見合わせて笑った。
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