めて耐《こら》えていた。やや三、四十分もそうしていたが、とうとう堪《こら》えきれなくなってお宮の方に向きなおりながら、
「お前|真実《ほんとう》に柳沢が好いの? 真実のことをいってくれ。僕怒りやしないから」
弱い声でいった。するとお宮は、
「ええ、柳沢さんが好いの」やっぱりさっきのような泣き声で返辞をした。
私は消え入るような心地になってじっと堪えていたが、果ては耐えられなくなっていきなり、
「ああ悔しい!![#「!!」は第3水準1−8−75、363−下−21]……思いつめた女に友達と見変えられた」といってかっと両子で頭髪《あたま》を引っ掻《か》いて蒲団の中で身悶《みもだ》えした。
するとお宮は、「おう恐《こわ》い人!![#「!!」は第3水準1−8−75、364−上−1]」と、呆れたようにいって蒲団の端の方に身を退《の》いて、背後《うしろ》に※[#「てへん+丑」、第4水準2−12−93、364−上−2]《ね》じ向いて私の方を見た。
私は、その時お宮と自分との間が肉体《からだ》はわずか三尺も隔っていなくっても互いの心持ちはもう千里も遠くに離れている仇《かたき》同志のような感じがし
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