うと口に出されて見ると、私は木から落された猿《さる》といおうか何といおうか自分が深く思いつめていればいるほど、何ともいいようのない侮辱を感じた。私は、ありとあらゆるものから独《ひと》り突き放されたような失望と怨恨《うらみ》に胸が張り裂けるような気持ちがした。
 そして「何だ。柳沢が好いといって、いわば現在|恋敵《こいがたき》の俺《おれ》のところに来ていて、ほろほろ泣き声を出す奴《やつ》があるものか」
 と、私は怨めしい、腹が立つというよりも呆れかえっておかしくなって、何という見境もない駄々《だだ》っ児《こ》の、我儘《わがまま》放題に生まれついた女であろうと思った。
「勝手にしゃあがれ」と思いながらうっちゃらかしておいて私はさっさっと便処に行って来て床の中にもぐりこんで頭からすっぽり蒲団《ふとん》を被《かぶ》った。
「私も寝る」お宮はまたも泣き声でいいながら後からそうっと入って来た。
 私はくるりと背《せな》を向けて寝た振りをしていた。そしてそのまま黙って寝入ってしまおうとしたが、胸は燃え、頭は冴《さ》えて寝られるどころではない。お宮の方に向き直って何か言わねば気が済まぬのをじっと息を詰
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