おいて下さい。……」そういってお宮はまた黙りこんだ。
私は、あまりに人を馬鹿にしたわがままな素振りにかっとなったが、それでもじっと耐《こら》えてうっちゃっていた。するとお宮はどう思ったか、
「……柳沢さんは好い人ねえ」と、だしぬけにいった。
「うむ。……お前柳沢に逢《あ》ったの?」
「ほほほほ」お宮は莫蓮者《ばくれんもの》らしい妖艶《ようえん》な表情《かおつき》をして意味ありそうに笑った。
「逢ったのだろう」さっきからちょっとの間に恐ろしく相形《そうぎょう》の変ったお宮の顔を瞻《みまも》った。
「そりゃあ柳沢に逢おうと、だれに逢おうと、どうだって構わないのだが……」
「私、あなた嫌い!」
「そうか、そりゃああんまり好かれてもいないだろうが。嫌いな男のところへ無理に来てもらってお気の毒だったねえ。じゃこれから帰ってもらっても差支《さしつか》えないよ」
私はたまりかねた胸をじっと抑えながらいった。
「今晩これから柳沢さんのところへ二人で遊びにいって見ようか」
お宮は私を馬鹿にしたような横着そうな口の利きようをする。
「うむ。……お前一人行って見たらいいだろう」私は、お宮や柳沢のよく言
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