望を感じながら「そんなに朝鮮なんかへゆかなくたって、東京でどうかなるだろう」
「だってしようがないもの。もう女郎にでも何にでも身を売って、その金をやってこんどこそ縁を切ってしまう」
そんな話しをしていても、さらばどうしたらばよかろうかとか、何とか私を頼《たよ》りに相談を持ちかけるという風でもないので、こちらもあっけなくって、勝手にしろと思って泊らずに早く帰った。
四、五日たってから、加藤の内に来てくれるように電話をかけたけれど、留守であったり何かしていつものようにその日に来なかった。それでこちらからわざわざ蠣殻町まで迎えにいった。
「宮ちゃん、用があるとか何とかいっていましたよ。今いません」女中のお清《きよ》が一人いて、そういった。
その時分は、私は清月にゆかずに、すぐお宮のいる家にいって、主婦やお清を対手《あいて》にしながら話し込むことがめずらしくなかった。
「雪岡さん、何にもありませんが御飯を食べませんか。宮ちゃんと一緒にお食べなさい」
私は大きな餉台《ちゃぶだい》にほかの売女《おんな》どもと一緒に並んで御飯《めし》を食べたりなどしていた。
お宮が外から帰って来たので、厭
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