あぐんでいたが、手紙もよこさなかった。堪《こら》えかねてこちらから手紙を出して見たが、それに対する返辞もない。とうとう耐忍《がまん》しきれなくって、その次の次の日に清月まで出かけて行った。
「この間私の留守のまに君来てくれたそうだけれど残念だった。何か用でもあったの?」
面と向っても黙ったまま何とも口を利《き》かないので、私の方から口をきった。そして私は腹の中で、この女の勝手につけてはよく饒舌《しゃべ》りながら、気の向かぬ時は怒ったようにむっつりしているのを、柳沢によく似た女だなと思っていた。
「この間は用があったけれど、もう何にもない」
まるで義理で口を利くような物の言いぶりをする。
「けれど来た時はどんな用だったの。それを聞かないと何だか気になってしようがない」
私はやさしく訊いた。
「いったってしようがない」お宮はまた怒ったようにいった。
それで私もその上|強《し》いて訊こうとはしなかった。そして横になってから、
「私、朝鮮に行くかも知れないよ」と、考え深そうにしていった。
「また例の男が何とかいって来るの」私はこの女を遠くに手放すのが惜しいようで、それをきくとたちまち失
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