しまったのだった。
 そしていつの間にかもうそんなところへ嫁《かたづ》いていたのだと聴いたから、私は、新吉はじめお前たちを身を八裂きにして煮て喰《く》ってもなお飽き足らぬくらい腹が立ってあんなに、お前をどこの街頭《まちつじ》でも構わない、見つけ次第打ち殺すと書いたのだ。
 加藤の二階で、寂しさやる瀬なさに寝つかれぬままその手紙を書きながら、どうあってもお前を殺すという覚悟をしていると、いくらか今朝からの怨恨《うらみ》が鎮静して来たようだった。
 翌朝《あくるあさ》その手紙を入れた足で矢来の老婆《ばあ》さんのところにゆき
「おばさん、もうおすまの奴《やつ》ほかへ嫁づいていやがるんだ!」
 そういって、私は身を投げるようにそこに寝転んだ。
「へえ! もう嫁いているんですって?……誰れがそんなことをいいました」
 昨日《きのう》これこれでお前の老母《おっか》さんから聴いたという話しをすると、
「そうですか。……どうも私にはそんなには思われませんがねえ。けれどもおすまさんも年がもう年ですから、急いでそうしたかも知れません」
 老婆《ばあ》さんは手頼《たよ》りないことをいいながら、相変らず状袋を
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