、どうぞもう引き取って下さいまし。……また大きな仕事を何かお請けなすったって」お前はそういってほかへ話をそらそうとした。
「いえ、ええ」と、新吉は得意げな返辞を洩らしながらだんだん静かになって来た。
「……あなた、新さんがあんなにいうんですから、どうぞ新さんのために別れると思って此家《ここ》を出ていって下さい」
新吉が帰っていってからお前は私の傍に戻って来てそういった。
「何だ。あの物のいい振りは。俺《わし》はあんな人間がお前の姉の亭主だと思うと厭だからいわなくとも早くどこか探して出てゆくよ」
「初めガラッと門をあけて入って来た時に、あんまり恐ろしい権幕だったから、私はどうしようかと思った。私を打《ぶ》ちでもするかと思った。私、あれが新さんが厭なの。そりゃ姉の亭主だから義兄《にい》さんにいさんと下手《したで》に出ていれば親切なことは親切な人なんですけれど」
「なんだ。教育がどうのこうのッて」
「自分一人偉い者のようにいって」お前もそういって冷笑《わら》った。
そんな喧《やかま》しいことがあったけれど、私がどうしてもずるずるに居据って出てゆかなかったのでとうとうお前の方から姿を隠して
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