の》といっては小《ち》さい荷車一つにも足らなかった。小倉は暇にまかせて近いところを二度に運んでいった。
そうなくてさえ薄暗い六畳二間ががらんとして荷物を運び出した後がまるで空家《あきや》のように荒れていた。
私は老母《ばあ》さんのぶつぶつ言っているのを尻目《しりめ》にかけながら座敷に上って喪心したようにどかりと尻を落してぐったりとなっていた。
家外《そと》は静かな暖《あった》かな冬の日が照って、どこかそこらを歩いたらば、どんなに愉快だろうと思うようにカラリと空が晴れていた。
ようやく立ち上って私はそこらの家ん中を見てまわった。すると台所の板の間に鼠入《ねずみい》らずがあるのに気がついて、
「ああ、これは高い銭《かね》を出して買ったのだ」と思いながら、方々の戸棚《とだな》を明けて見るといろんな物が入っている。よく二人の仲が無事であった時分に私が手伝って西洋料理をこしらえて食べた時のパン粉やヘットの臭《にお》いがして、戸棚の中に溢《こぼ》れている。
小袖斗《こひきだし》の中には新らしい割箸がまだたくさんにある。
「お客に割箸の一度使ったのを使うのは、しみったれていますよ。あんな安
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