明けてくれた。
 私は押入れを明けて氷のような蒲団《ふとん》の中へ自棄糞《やけくそ》にもぐりこんで軒下の野良犬《のらいぬ》のように丸く曲ってそのまま困睡した。

 老婆《ばあ》さんは、前にもいったようにきっとお前や柳町の入れ知恵もあったのだろうが、私にここのうちを出ていってくれといって、後には毒づくように言って追い立てようとした。
 私も、お前がどこにどうしているか、それを知りたいばかりに喜久井町の家で欝《ふさ》ぎこんで湿っぽい日を暮しているものの、そこにいたって所詮《しょせん》分るあてのないものとなればどこか他の、もっと日当りの好い清洒《こざっぱり》とした間借りでもしようかと思っていたが、それにしても六年も七年も永い間不如意ながら自分で所帯をもって食べたい物を食べて来たのに、これから他人の家の一|間《ま》を借りて、恋でも情けでもない見知らぬ人間に気兼ねをするのが私には億劫《おっくう》であった。それでずるずるにやっぱり居馴《いな》れた喜久井町の家に腐れ着いていたのだ。
 すると弟の柳沢のいた、あの関口の加藤の二階が先だってから明いていて、柳沢のところの老婢《ばあさん》に
「雪岡さん、本
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