から、遠慮をしないでお宮をつれて別の部屋に入っていった。
 間もなく私たちは其待合《そこ》を出て戻った。
「ふん! あんな変な女を連れて来て」
 柳沢は人形町の電車通りまで出て来ると、吐き出すようにいった。
「君は、どうもしなかったかね?」
「どうもするもんか。あんな小便臭い子供を。お宮はあんな奴《やつ》を、自分の妹分だといって、あれを他の客によく勧めるんだ。だれがあんな奴を買うものがあるもんか!」
 中二日置いて、この間からいっていた、外套《コート》を買ってやる約束があったのでまたお宮に逢いに行った。清月にいって掛けるとお宮はすぐやって来た。
「今日外套を一緒に買いにゆこう」
「今日」と、お宮は嬉《うれ》しさを包みきれぬように微笑《わら》い徴笑い「これから? 遅《おそ》かなくって?」行きとうもあるし、躊躇《ためら》うようにもいった。
「ゆこうよ。遅かない」
「そうねえ。何だか私、今日|怠儀《たいぎ》だ。……あなた一人行って買って来て下さい。私どこへもゆかない、ここに待っているから……その辺にいくらもある」と、無愛相にいう。
「いや、それはいけない、僕は一緒に物を買いにゆくのが楽しみな
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