ん》の紋付、着物は上下|揃《そろ》った、やっぱりお召さ」
そこへ誂《あつら》えた寿司《すし》が来た。
「君たちも食べないか」私は女どもにすすめながら摘《つま》んだ。柳沢はもう黙って口に押し込んでいた。
「食べようねえ」お宮はも一人の女に合図して食べた。
柳沢は口をもぐもぐさせながら指先の汚《よご》れたのを何で拭《ふ》こうかと迷っていた。
「ああ拭くもの?……これでお拭きなさい」
お宮は女持ちの小《ち》さい、唐草《からくさ》を刺繍《ししゅう》した半巾《ハンケチ》を投げやった。
柳沢はそれで掌先を拭いて、それから茶を飲んだ後の口を拭いた。
「君、あっちい二人で行ったらいいじゃないか」
柳沢は気を利かしてそっと私に目配せした。
「うむ。……まあ好いさ。……君はどうする?」私は自分でも明らかに意味のわからないことをいって訊いた。
「僕は、お前とここで話しをしているねえ」柳沢はふざけたようにも一人の女の顔を窺《のぞ》くように見ていった。
私は、自分の慎むべき秘密を人にあけすけに見ていられるような侮辱を感じたけれどこんなところにすでに来ていてそんな外見《みえ》をしなくってもいいと思った
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