でやつて居ましたから、決して物に溺れるといふ事をしませんでした。例へば酒を飲むにしても一人では呑まない、附合ひで呑む、之れも世に出度いといふ一つの策略から呑むのだといふ頭を持つて居ました。
 所で芸と言ふものは一生の勉強です、これで宜いといふ限りあるものではない。そこで、何でも良い師匠に附かなくちやならないと思つて、昔の禽語楼、二代目小さん、先代の談洲楼燕枝、蔵前の師匠といつた四代目春風亭柳枝、此の人等の処に行つて始終話を教はつたり聞いたりしました。
 その時分に先代燕枝の弟子に燕車といふ老人があつて、此の人は芸は実にまあ名人でした。現に五代目菊五郎はこの燕車が好きで、始終家へ呼んで弟子と一緒に其の話を聞きます。そして菊五郎は燕車の話を聴いてゐる間は決して座布団を敷かない。芸人が芸人の芸を聴くんだから仮りにも無礼なことがあつちやならないと弟子に言ひ渡し、燕車の話を聴き終ると、どうだ!我々は鬘をつけ衣装を着、道具を飾り一人一役でさへ満足なことも出来ないのに、此の人は扇一本で此れ丈けの大勢の人間を其処へちやんと現はす、実に名人だ、お前たちも之を迂闊に伺つてゐちやいけないぞと言つて、弟子に教
前へ 次へ
全19ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
談洲楼 燕枝 二代 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング