三筋町の方へ転居する事になりました。私は徴兵検査も済み、体格は甲の合格でありましたが、抽籤でまあ段々と国民軍へ編入される様な具合になつて了ひました。で、その当時身を立てることを考へたのですが、どうも商人になるには昔と違つて相当資本がなければ出来ませんし、官途に奉職するにしたつて矢張り相当の学校を出て居なければ用ひられもしない、人間此の世に生れて来てどうも余り名前も知られないで死んでしまふといふ事はつまらない話です。何か金もなく、学問もなくて、どうかまあ人にダースの人間でなく扱はれるものがなからうかと考へた末、役者にならうかと思ひましたが、役者も門閥と言ふ昔からの壁がある。今以てその門閥なるものが厳として残つてゐるのですから、急に出世も出来ないことは解りきつてゐます。では講釈師はどうだらう、処がこれが、考へて見ると木の枕でごろ/\転つて聞いてゐると言ふ様な人が多い。最後に、では一つ噺家になつて見やう、さうしたら何とか人にも知られる様な人間になれるだらうと考へ、その決心をしました。
 扨てこれからが修業のお噺です。我々の若い時分は、遊ぶことでも何でも総て無駄にはせず出世をし度い/\といふ頭
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