州に、上州円朝と綽名された世界坊一〇といふ噺家がありました。是れが円朝の人情噺ばかりをやる、それはどうも大した人気で、そこで上州円朝と言はれてゐました。此男旅で大層お客を取つたものですから、俺は旅で此れ位客がとれるのだから東京でもとれるだらうと思ひ、東京へ出て来た。そうして端席を打つてゐた所が、やはり何処へ行つてもお客が来る。さうするうちに藁店へ来る御常連が、世界坊一〇は大層客をとる、うまいものだつていふが頭かけて見ねえか、と席亭へ話しをしました。が主人は、どうも私の処ではさう言ふ品物はかけたくありませんと言つて断つたが、御常連が是非一度かけて見ろと言ふのでそれではと一〇の処へ話しに行きました。其の頃藁店の勢は大したものです。一〇の方でも大喜びで「是非お願ひします」と言ふのでかけて見ました。さて初日を出すとそれこそ満員客止です。終つて一〇が楽屋へ下りて来ますと、席亭は「師匠どうも御苦労でございました。どうかこれを一つ召上つて下さいまし」と言つてそば[#「そば」に傍点]を出しました。昔は千秋楽には「お目でたう御座います」と言つて必ずそば[#「そば」に傍点]を出方の所へ席亭から寄越したもの
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