をしやがつて、あんな者はかけなくつたつて品物は他に幾らもある」と言ふ訳でお断りです。芸よりお辞儀をしに来る芸人が可愛いのだ、災難なのは何も知らないお客様です。少し食ひ足りない者でも席亭にさへ気に入ればそれが真打になると言ふのぢや、お客さまが段々減つて来るのはこいつ当然の成行きです。段々寄席が衰亡すると言ふ声が高い様ですが、今言つた様な芸に対する根本の気持が改まらなくては、寄席は発達するものではありません。
 殊更に席亭さんが芸人にペコ/\お辞儀することを奨める訳ではないが、もつと席亭と芸人の間が親密になつて、芸そのものを尊重する様にしなければいけないと思ひます。
 昔は席亭にとつて其の芸人が嫌でも、お客様にさへ気に入られれば、その噺家を真打としてやつたものです。今は席亭第一、お客第二です。席亭の気に入られなけりや寄席営業には出られません。変れば変つたものです。

     ○

 昔の席亭はまた面白い気風を持つてゐました。現に牛込に藁店と言ふ寄席があります。是がやはり組頭さんが主人をしてゐて、どうも実にお客様が来たものです、先づ三百を欠けたことがないと言ふ位繁昌した。
 ところで当時上
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