昔の席亭の主人は違ひます。当時茅場町に「宮松」といふ寄席がありましたが、其処の主人宮松三之助と言ふ人、この人は東京の火消組合の総頭取をしてゐてその頃飛ぶ鳥を落す程の有名な頭でした。処が、この人が一たび寄席へはいると、全く寄席の主人となつて高振つた所は微塵もありません。下足番と一緒になつて、お客さんに下足を出し、「有難うございました」と言つてお辞儀をする。楽屋へはいつて来ても「御苦労様でございます、有難う御座います」と言つて出方に厚く御辞儀をしたものです。
初日といふと昔は真打の所へ、仮令へ中身は最中でもなんでも、菓子折を一つ持つて「今晩から何分御願ひ申します」と斯う言つて来たものです。従つて噺家の乗つた俥が木戸へ着くと、「へい師匠御苦労さまで御座います」と言つて大きな声を出して怒鳴つたもんです。是は何故かと言ふと、お客様に対し、自分の席へ出る噺家に箔をつけるといふ積りで席亭がやるのです。
処が今はまるで反対です。先づかけ出しの真打ちならば初日に席亭の処へ行つて、「へい今晩から御厄介になります。どうか何分宜しくお願ひいたします」とお辞儀をします。それをしない芸人は、「何だ大きな面
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