れで払へると思つて寄席へ行きます。ところで高座へ上るときに、前座が行李の蓋をあけると羽織がない、「お師匠さん、羽織がありません」「ああ嬶の奴が羽織を入れるのを忘れやがつたのだらう、仕方がない羽織なしで勤めてしまふよ」一晩は忘れたで済む。二晩目はそれでは済みません。仕方がないから風邪を引いたと言つて休む。そのうちに高利貸を彼方此方歩き廻はつて算段をし、羽織を受出して、風邪が治つたからと言つて寄席へ出ることになります。ところが終ひには有名になつて高利貸も貸さない、彼奴に貸しても取れないと言ふ。質店も同様です。そこで止むなく家へ二三日閉ぢ籠つたと言ふ様なこともありました。すると又捨てる神あれば助ける神ありで、或る寄席の主人が来て気の毒だからと言ふんで金を貸して呉れ、それでやつと高利貸の目鼻を明け寄席へも出られることになつたといふ、今の人の想像もつかない様なそんな苦しみもありました。
その頃の貧乏の三大将と言ふのが、亡くなつた三遊亭円右、三代目小さん、それと私で、円右さんなども実に長いこと貧乏をして居りました。晩年には相当資産も作られたやうですが…。
私も斯様に貧乏に貧乏を重ねて来て、それ
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