の人々にそれだけの給金を払はなければ前を勤めて呉れません。勤めて呉れなければ所謂「舞てしまふ」と言ふので、看板を上げて十五日間続かないで、三日四日で止めてしまふ。さうすると、「あの野郎は駄目だよ、看板を上げて三日四日で舞つちまつたよ」と言ふことになります。それで割りを出して、前の人が逃げない様に勤めて貰ひ、十五日間やり通しました。それだから自然苦しくなる訳で、どうにも仕方がない。とうとう掛け持の寄席は何処へ行つても割は席に取られて少しも収入はなくなつて了ひました。何しろ借りが多いので、皆割りで引かれちまふんです。その頃俥屋の日給が二十五銭でした。然るに帰つて来て俥屋に払ふ銭がない、仕方がないから口から出まかせに「おい、お前五円で釣りがあるかい」と訊く、二十五銭の俥代に五円で釣があるかと言つても俥屋の持つてゐる道理がありません。これは分り切つた話で、「持つてゐませんが」と言へば、「ぢや明日の晩一緒にやるよ」と言つて帰へしてしまふ。翌日はどうでも斯うでも払はなければならない、さもなければ引いて行つて呉れない。夏であつたが、仕方がなく昼間の中に一番さきに絽の羽織を質に入れて、そうして今夜は之
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