つてゐる。その彼方には伊豆半島あたりなんだらうが、紫紺色に煙つてゐて何も見えない。遠い遠い色だ。その奧から小さい雲がいくつもいくつも産れて來て、あるものはしだいに大きく頭上に近づきながら消え、あるものは北から西へかけての海上にゆるゆると並んで動いてゆく。なんといふ魂をひきこむ奴等だ、あの雲どもは。それを見てゐるうち、僕は突然思ひがけない悲しみの情に捕へられた。僕は思ひ出したのだ、東京に置き去りにして來た筈の僕の生活を、この二年間のさまざまな無意味な苦しみを。それは無意味といふより仕方のないものだ。そして、今だに僕を苦しめてゐる。僕はそれから逃げ出すことはできないやうな氣がする。
島へ來てから、僕は妻と子供のことを一番考へるやうになつた。別段考へるつもりはないのにやつて來る。重苦しい、名状しがたい嫌な氣持が伴ふ。昨日の朝も、僕はこんな夢を見た。――僕は何かのわけで僕の子供を殺した。とさう夢の中ではつきり解つてゐた。身體中が刃物で切りまくられてゐるやうに感じた。それから僕が殺したのは子供だけではなく、妻をもであることが何故ともなく解つて來た。どうしてかういふことになつたのだらう、と考へた
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