。それまで南側の隙間を防いでゐた板をとり除いて、今度はそこから水を戸外へ通り拔けさせる。ああ吹け吹け。吹いて吹いて何もかもぶち壞してしまへ。
 風はやつとないだ。牛の鳴聲が林の向うから聞えて來る。僕のゐる部屋とは反對の端にある、こゝの家のバタ製造の作業場では、分離器を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]す音が遠い唸り聲をたてる。僕は牛小屋の前を通つて、そこの下手の草地につながれてゐる大きな種牛のむくれ上つた逞ましい肩を飽きず眺めて、それから海邊の崖上に出た。崖の上には枯草が厚く生えたまゝでゐる。崖縁を細い路がついてゐる。それを行くと廣い突鼻《とつぱな》の上に出た。眞黒い熔岩に縁どられた枯草地。僕はそこに寢ころんで煙草を吸つた。
 微風が北方からやつて來る。南方の海上には、海からいきなり立上つて固まつた感じのする御藏《みくら》島の青い姿が見える。その島と、僕のゐる三宅《みやけ》島との間の海面には、潮流が皺になつて、波立つて、大きく廣々と流れてゐる。やがて、僕は身體の向きを變へて北方を眺めた。青い。何もかも青い。神津《かうづ》島、式根《しきね》島、新《にひ》島が間を置いて列《つらな》
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