南方
田畑修一郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)榛《はん》の木の疎林
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]
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島へ來てもう一月近くになるが、なんて風の吹くところだらう。着いた最初の日、濱邊から斷崖の急坂をのぼつて、榛《はん》の木の疎林、椿のたち並んだ樹間の路を、神着《かみつき》村の部落まで荷物をつけた大きな牛の尻について歩いてゆくとき、附近の林、畑地の灌木などが爭つて新芽をふき出してゐるのを見て、又、路が上つたり下つたりして、とある耕作地の斜面のわきに出たとき、その傾斜地一帶、更に上方になだらかな裾を引いてゐる休火山の中腹のあたりまで、煙のやうな淡緑に蔽はれてゐるのを見て、僕は一二ヶ月素通りしていきなり春の眞中にとびこんだやうに感じたものだ。まだ切るやうに冷い風の吹いてゐる靈岸《れいがん》島で汽船の出るのを待つてゐたのは、つい昨日の晩のことなのだから。
だが、三日めから風が出た。そして雨。何といふ強
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