した。すると事の次第はともかく、たゞ無暗に悲しくなつて、その場を動けないもののやうに肩を落すと
「お義父《とう》さんに対しても私、顔むけがなりません」と言ひかへした。
鳥羽はじろりと眼を向けたが、
「それは俺から話す。お前は黙つて居ればそれでいゝ」と言ひ放つたなり部屋を出て行つた。
民子は後で一人で泣いてゐたが、やがて弟たちの走り近づく足音が聞えると逃げるやうにして部屋を出た。母が永い間病臥して居り、息もそこで引きとつた離れの横を廻ると裏庭なのである。民子はそこの支那風の水盤の傍で、うつそりと立つたまゝ空を見、畑を眺めたりしたが涙は後から後からと溢れ出た。静かな足音が背後できこえ、民子はそれが卯女子だと知つたがぢつと立ちつくしたまゝでゐた。
曲りなりにも話しは片附いて幾は鳥羽家に入ることになつたのであるが、しかしそれには鳥羽の友人の奔走もあつたのである。
鳥羽は相変らず無口であつたが、それでも多少は安心したのだらう、暫らく投げやりにしてゐた植木いぢりを始めたりした。もつとも鳥羽のやり方はたゞ裾をはしよつて鋏《はさみ》を持ち、木の間を廻ると云ふだけで、よく子供たちから格好だけだ
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