れ見ろ買つて貰へたではないか、と云ふ風に幾に示すのであつた。
 鳥羽は浅黒い顔に心持薄い唇をいつも引きしめて大抵の場合渋い苦り切つた表情をしてゐたが、それを恐れなかつたのは軍治だけであつて、他人には随分厳格に見えるのだつた。実際、用談の場合などには、相手の腹を何から何まで見透してゐると思はれる風な鋭い、迫つた口の利き方をしてゐた。かう云ふ点では随分多くの敵を作つてゐたのであるが、一面には親しくなると気が弱く、位置に似合ず信用貸に類したものが沢山あつて、没落して始めてそれらのものが形をなして現はれて来たのである。
 最初、銀行の金で定期に手を出したのが基で、それがうまく行かず、損が次第に大きくなると、それからは自分で自分の穴を掘つて行く有様だつた。
 当然来るべき筈のものが来た。検査役の手で一切が明るみに出てしまつたのである。行金費消は数人によつて行はれたのであるが、支払能力のあるのは鳥羽だけであつて、責任と云ふ点もあり、鳥羽は私財の全部を提供することになつたがそれでも全額を償ふには足りなかつた。明るみに出たとは云へ、やはり銀行の内部だけの話しで、友人の心配もあり、示談と云ふことで済みさ
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