は弟達の世話を、幾は台所の方を、と云ふ風に仕事の分け方がいつとはなしに出来てゐたのであるが、時々鳥羽が勤め先から帰つて来て小言を云ふことがある場合に、落度が卯女子にあるとも、幾にあるとも解らないことがあつた。すると、幾はきまつて自分の落度にしてしまふのである。そして又、鳥羽はそれが明らかに卯女子の落度であると解つてゐるやうな場合でも、幾に向つて叱りつけるのだつた。
卯女子は幾が父に詫びてゐる背後で顔を赭《あか》らめることもあつたし、又父の仕方をありがたいと思ふのでもあつたが、さう云ふ事も重なると、父の態度も外々《そらぞら》しいと思ふことがあるのだつた。しかし、これが反対に自分が叱られてばかりゐたら、又これは腹の立つことだらう、と多少は考へてもみるが、やはり実際にないことには頭が向かないのである。
料理屋の方は他人に貸してしまつて、蒔は鳥羽家からさう遠くない場所に家を借り、そこに一人住ひをしてゐたのであるが、よく裏庭から顔を出した。彼女が来ると、老寄《としよ》りらしく同じことをいつまでもくどくど繰りかへし話すと云ふので、幾は迷惑がるのであつた。卯女子の前で、二人はそのことで言ひ合ひを
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