エ、にいさんったらあれだ。そんなんじゃありませんよ」
 それで皆が一時に笑いだす。「にいさん」というのは皆が檜垣を呼ぶ言い方だ。「タイメイ」さんは後から何をからかわれるか気にして、窓のところへ音をたてないように寄って、人目につかない用心をしていたが、檜垣が指物《さしもの》の話を持ちだすときゅうに元気になった。よく喋る。目の前に出された置物台の木理《もくめ》をしらべたり、指先で尺をとったり、こんこん台の脚をたたいたりして説明するんだが、その手つきにはどこか真似のできない巧みさがあり、他の人が持ったときよりも彼の手にあるときの置物台が何だか生きて見えるのだった。
 檜垣は僕のために島めぐりの案内人をつけようと言って、
「そうだ、タイメイならちょうどよかろう。やつならおもしろい男だし、うってつけだ」
 と、話していたのだが、「タイメイ」さんはその話を聞くとすぐに承知してくれた。
 二日後の朝 僕はきゅうにうって変った背広服に色変りのズボン姿の「タイメイ」さん(その中には中島泰明という先日とは別の男が顔を出していた)といっしょに島めぐりに出かけた。
 神着《かみつき》の部落をはなれると、路は右
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