でいたら、ほんとうの名は「隆さん」だった。
「タイメイ」という人は若い指物師《さしものし》で、やはり東京に何年か出ていたのだが、病気で帰っているという。なんだか亀の名みたいで僕は「リュウさん」の例もあるし変な気がしていたが、字を訊くと「泰明」という立派な名前なのでよけいに面喰《めんくら》った。
「タイメイ」さんは医者のかえりだと言って薬瓶をさげて入ってきた。銘仙《めいせん》の光る着物を長く着て、帯を腰の下の方に結んで、ロイド眼鏡の鼻にあたるところが橋のようになっているのをかけて、顔は島の人に似合わない白さだった。それに様子《ようす》全体に何だかちょこちょこした、椅子に腰かけるにもそこらを歩くにも小腰を落したような、変に柔かい、遊人風《あそびにんふう》なところがあった。
「病気はなんだい」と、檜垣がからかうように訊く。
「え、まア、神経衰弱ですね」と、相手のからかう調子に用心した風で、にやにやして、ちょっと上眼に見る。
「おれは、タイメイが病気だっていうから医者にどんな病気かって訊いてやったよ」と、檜垣がわざとくそまじめに、それからニヤリとして、
「神経衰弱なんかじゃないだろう」
「えへ
前へ
次へ
全41ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田畑 修一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング