そうも思った。
ちょうど、檜垣の母方の祖父が亡くなったので、お悔《くや》みをのべがてら遊びに神着村へ行った。そのとき、檜垣は何を思ったのか、彼の身の上をしみじみと語り、
「僕はこれで、時々やりきれなくなることがありますよ。島の者だからね、島で死ぬつもりだが、島でなれる限りの幸福なことを考えてみてもやっぱりだめですな」
と、言った。
金も乏しくなったし、ぼつぼつ帰ろうという気も起きたので、一度は上ってみたいと思っていた雄山へ行くことにした。案内人をつけないと路がわからないだろうと言われたが、かまわずに一人で出かけた。七百メートルくらいの山だから平気だと思った。いつか民さんたちと放牧に行ったことのある、そこらからまた急な坂路になって、しばらくすると広い平坦なところへ出た。林と草地が入れ代り現われる。だいたいの路は聞いたのだが、何分広い原っぱみたいなので路がわからなくなった。
ふと気づくと、中腹にあたる林の中からうすい煙が立っていて、よく見ていると、なんだかそこいらの林を切っているらしく、林の上っ葉が一所ずつ揺れて、そこだけ空所ができていくようだ。目あてにして行くと、四五人の男が炭材
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