っともくれないが、時々くれ。バタを去年送ったが、それは着いたか。だいぶ温かくなったので、薄いシャツを三枚送ってくれ。それからチョコレートと何か菓子を送ってくれ」
そう言って、
「板チョコ、うまいですからね」
と、この頭の円く禿《は》げた民さんは僕に向って口をすすってみせるのだった。
民さんはしかし毎日の仕事はよくした。もっとも、牛を山へ追い上げてしまえば、牛はそこらで草を食っているのだから、たいてい日中を山で寝て暮すという。だが、酒が好きで、一杯やるときっと脱線する。二三日は帰ってこないのだ。僕のいる間にも、芭蕉イカの大きいのが獲《と》れたので、民さんはそれを持って部落のこの家の親戚まで夜に入ってから使いに出かけたが、翌日の午後になって手ぶらで帰ってきた。途中でやはり牧夫仲間の太郎というのに会い、そのままひっかかって、とうとう土産物のイカを洗いもせずに裂いて肴《さかな》にして喰った上、方々の農家をたたき起して酒をねだり、山で寝てかえったのだ。翌日一日じゅう腹が痛いと言って寝ていた。
「暗らやみで生イカを食ったもんだから、口のまわりをイカの墨で真黒にしたちゅう、なあ民さん。腹痛たは
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