代は自分の出生を知って、その母親をとても嫌やがるという。白痴の母親はもとここの家にいたことがあるので、今も時々やってくる。その母親というのは僕のいる間にも一度やってきたが、正代の母親と思えないくらいに若くて、やはり私生児の赤ん坊を背中にくくりつけていた。家は阿古村の部落にあるのだが、ちっともそこへ帰えらない、どこにでも地面や石垣の隅なんかで寝るんだという。その母親の来たとき、正代はぷいとどっかへ姿をかくしてしまった。
家の前の畑傍に四坪ばかりの小屋がある。トタン葺《ぶ》きで、板壁というよりほんの板囲《いたがこ》いだ。窓らしいものがなくて、たぶん雨戸の古だろうと思われるようなものが押上窓のように上部にとりつけてあるきりだ。内部は半分は土間で、つくりつけの竈《かまど》が二つ並んでおり、その隅にやはり竈の上にのっけて固めた工合の風呂釜がある。むろん煙出しなんかないので、しょっちゅう煙がこもっているし、どこも真黒に煤けている。後半分は畳敷と板の上に上敷《うわじき》をしいてどうにか部屋らしい体裁になっているが、そこが牧夫の民さんと白痴の昌さんとの住居だった。
僕は頭の悪いのは昌さんだけかと思
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