りたての牛乳をわざわざ持ってきてくれた。
 僕と「タイメイ」さんとはその日途中の坪田村で一泊し、ぐるりと島を一まわりして神着村にかえった。

 それから間もなく、僕は阿古村の中だが部落からさらに一里ほど西南方の、あたりにはほとんど人家のない農場へ移った。島めぐりのときにその場所を見つけたのだ。檜垣は僕を神着村にひきとめておきたいらしく、いろいろ部屋の都合など聞き合わせてくれたが僕はとうとう我がままをとおして阿古村へ行った。一つには今度の場所が気に入ったのでもあるが、神着には檜垣をはじめ知り合いもだいぶできたし、僕は自分の孤独を邪魔されるのを恐れたのだ。檜垣には何も言わずにおいた。僕は自分でも説明のできない誰にも言いたくない心の状態にいた。いろいろ人に訊かれたり、檜垣にも訊かれたりして、眠れない病気だと言って片づけた。事実そのとおりで、他人にはそのほかに言うことはない。だが、僕の内部ではそれではすまなかった。病気はよくなったり悪くなったりして二年近くつづいていた。峠は越したように思われたし、僕もそれを望んでいたが、しかしそれはわからない。嫌やな嫌やな奴だ。それは人間の顔をしている時もある
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