。
「なあ、お前、よくよく考えてだね、ひとつこの私に任かせてちょうだい。私に考えがあるから、ひとつ任かせておくれ」
「なにを任かせるんです。何も任かせることなんかありゃしない」と、娘。
「えへえ、そんなことを。まさかお前もこのまま牛の尻を追ったり山へ芋掘りに行ってばかりもいられまい」
「私は山が好きですよ、村はうるさいからね。山へ行ってる時がいちばんいい。牛の尻を追ったって、そんな暮しはちっとも悪いなんて思いやしない」
「まだ、あんなことを言う。そんなこと言っているとまた猫イラズだよ」
娘さんは笑いだした。東京に女中奉公していたとき、猫イラズをのんだという。
「どうってねえ、どういう気もないのよ。つい変な気になってねえ、のんだところがまずくてまずくて、吐きだしちゃった」
「あれですからね」
と僕の方をむいて、また
「だいたいお前さんも変った人だよ」
娘はしばらく黙っていた。それからふいに、
「あアあ、私なんだかちっともわからない」
と言った。そのときの娘の眼にはある閃《ひら》めきがあり、どっかに猫イラズを前にした時の彼女の姿が感じられた。
翌朝出発する前に、娘さんは搾《しぼ》
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