その叔母は起きているとしょっちゅう何かしろと言うし、ひる日中朝から晩まで床の中にもぐっている。――
「まったく、あなたの前ですが、面倒くさいから死んでやろうかと思いますよ」
と、彼は突然なげやりなほんとうに怒ったような調子で言った。彼の話はなにしろ流れすぎるので、どこからどこまで真《ま》にうけていいかわからなかったが、その瞬間の彼には「タイメイ」さんでもなく、「中島泰明君」でもない、何か別の、孤独に苦しんでいる男が見える気がした。そういえば、出発の前日に時間をうち合わせに彼のいる家を訪ねて行ったが、それは午後の二時ごろだったが、部落から小さいわき路を上って行ったところにある、高手ではあるが山蔭のようなところの、古い傾きかかった家で、彼は雨戸をたてきった真暗い部屋に寝ていた。そして叔母さんという人が彼をよび起すと、彼はのそっとして炉ばたに出てきて、僕といっしょに茶を啜《すす》りながら、永いこと黙っていた。傍には叔母さんが坐っていた。そのときの彼にも、前日に見たいくらか浮調子なへらへら微笑《わらい》がなくて、どこか「恐わい」ものを自分の中に抱いて生きている男の様子があった。
だが、そう
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