の間《かん》島におれない事情ができて、(「タイメイ」さんは話の間に「その間《かん》」という言葉をさしはさむ癖があった。別に必要でないところにも使うし、また説明しにくいところは「その間《かん》、いろいろの事情がありまして」と、うまく、するするといくらでも話をつづけるのであった)女といっしょに東京に出た。だがその女とも今は別れた。「女は今伊豆伊東町○○町○番地○○方にいて、まだ時々手紙をよこしますがね」と、こちらで訊きもしないのにそんな精《くわ》しいことまで喋って、今度は仕事の話になって、自分は指物師としていい仕事をしたい、幸い島は桑の本場だし、数少くともいい仕事をして暮すにはやっぱり島が都合がよいので、病気のためもあるがそう思って帰ってきた。ところが東京の店の主人が自分をひきもどそうとしてなかなか仕事道具を送ってくれないので困る、というような話をちっとも倦《あ》きさせないで長々と喋るのである。それからまた病気の話になって、
「毎日人に会うのがいやで寝てくらしますよ」
 と言う。ぶらぶらしていると島の人は、何だ遊びほけていると言うし、仕事をしようにも道具はないし、叔母さんの家にいるのだが、
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