ゝ、腹を地につけて坐りこみ、いかにも興味がなささうな、誰か通るから見てやるんだぞ、と云ふやうな様子で房一を眺めてゐた。その少し先きの家の縁側では女の子が二人、くたくたに古くなつて、紅いつけ色の滲んだ布ぐるみの人形をいぢつてゐた。口を利かなかつた。たゞ肩さきを擦りつけて手さきを動かしてゐるだけだ。それで、寝かされたり、起されたり、とれかかつた手をぶらんとさせたりする人形よりも、黙りこくつてそれをいぢつてゐる女の子達の方が、この薄ぼんやりした通りに似合つて、もつと人形染みてゐた。
しばらく行くと、ちやうど河原町の中ほどにあたる所で家並みがかなり長い間途切れてゐた。まはりは田圃《たんぼ》だけの、そこで今までまつすぐに来た道路は斜めに屈折して、二つの直線をなす上の町と下の町との喰ひちがひをつないでゐた。上の町のとつつきはやはりはつきり曲つてゐるので、その端にある雑貨店の前面が殆ど突きあたりに見えた。それは横手の壁が白く快げに厚く塗られて、その上に青黒い漆喰《しつくひ》で屋号を浮き出させた、かなり大きな裕福さうな家だつた。房一がその方に向つて歩きながら何気なく見ると、一人の男がその家の前に立つ
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