医師高間房一氏
田畑修一郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)磧《かはら》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)稍|上手《かみて》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《むし》りとり、

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)あか/\
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   第一章

     一

 この物語の主人公である高間房一の生ひ育つた河原町は非常に風土的色彩の強い町であつた。海抜にしてたかだか千米位の山脈が蜿蜒としてつらなり入り乱れてゐる奥地から、一条の狭いしかし水量の豊富な渓流が曲り曲つたあげく突如として平地に出る。そこで河は始めて空を映して白く広い水面となり、ゆつたりと息づきながら流れるやうに見える。その辺は平地と云つても、直径にして一里足らずの小盆地で、奥地から平凡になだらかに低まつて来た山々は一面の雑木山で、盆地の端に立つと向ふ側の山も殆ど手の届くやうな感じに近く見
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